第11回 南のシナリオ大賞 結果発表
南のシナリオ大賞
「無心の水槽」江頭 六花彦(福岡県)
優秀賞
「たまてばこを探して」天沼 彩(神奈川県)
「優しさめぐり」一樹 ろこ(神奈川県)
一次・二次選考通過作品
一次選考通過作作品(朱色は二次審査通過作品)
応募総数
協賛
選考会
第11回最終選考ドキュメント
第11回二次審査通過作品
第11回一次審査通過作品
大賞 「無心の水槽」 江頭六花彦
受賞者のことば
江頭六花彦 (福岡県)
スマートフォンに機種変更したばかりだったのです。電話の取り方はわかっていたものの、そのときは慣れないSNSに四苦八苦している最中でした。あれ、画面端に何か出てる。え、着信? どうするのこれ。押すのか? 通話中? 「もしもし」「大賞ですよ」……無事に吉報を受けることができて、本当によかったです。
物語をつくるきっかけと温かいダメ出しをくれたシナリオサロンの仲間達や、先生がいたから、書くことができました。大賞に選んでいただいたこと、心から嬉しく、誇らしく思います。ありがとうございました。
「無心の水槽」 あらすじ
野生のイルカを獲ることが禁止された世界。イルカは主に工場で作られるようになった。イルカ工場の工場長、田代は、期待の新人である梅野とともにイルカ生産に励む毎日を送っている。
田代には、もう一つの顔がある。それはイルカ工場と秘密の通路でつながっている「うらら水族館」の館長。
水族館には巨大な水槽があり、たくさんのクラゲが展示されている。クラゲの水槽には、疲れた人々が引き寄せられるようにやってくる。
田代は、そんな人々をイルカの材料にしていた。失踪した娘を捜す和子が、水族館を訪れる。そして田代と出会う。娘同様、和子もイルカの材料にした田代だが、疲れのせいか、少し感傷的になるのだった。
優秀賞 「たまてばこを探して」 天沼 彩
賞者のことば
天沼 彩 (神奈川県)
優秀賞を頂き大変嬉しく思います。……いやァ? 驚きました。人間、本当に驚くと大したリアクションもしないもんなんですね。私はケータイ片手に随分な間抜け面を晒していたんじゃないでしょうか。おはずかしい。
音と会話だけでどれだけ情緒や空気感を伝えることができるか、そしていかに語らず説明しすぎずドラマを展開できるか。この二点に特に拘って書きました。謎とちょっとのサスペンスを混ぜて…。
さて、いかがでしょうか?シナリオの向こうに、景色は見えますか? 風は吹いていますか?
「たまてばこを探して」 あらすじ
美術館の学芸員・岩田と佐藤は、海嶋慶一郎氏の遺品を鑑定するため海嶋家を訪れる。蔵に大切にしまわれた思い出の品々を広げていく二人。千代はその中に、むかし慶一郎に渡した『玉手箱』があるはずと言う。
その逸話に感動し、箱を探すと意気込む佐藤。一方、岩田は複雑な思いでいた。実は岩田は、美術館に寄付をする代わりに蔵に隠された遺書を探してほしいと千代の娘婿たちに頼まれた副館長の指示で来たのだ。
だがどうしても乗り気になれない岩田。佐藤が蔵の屋根裏に隠された箱を見つけるが、岩田は箱を開けずにそのまま千代に渡す。
千代の指示で開けると、中には遺書ではなく慶一郎からの千代への手紙が入っていた。千代は感謝し、蔵の中の遺品を全て美術館に寄付するという旨を伝える。
実は千代は娘婿たちの思惑や岩田の目的を全て承知の上、箱を探させて真心を試したのであった。
優秀賞 「優しさめぐり」 一樹ろこ
受賞者のことば
一樹ろこ (神奈川県)
この度は優秀賞をいただき、大変嬉しく思います。この栄は、私にエネルギーを与え、支えてくれるものと信じております。
コンクールに向け、何を書こうかと考えた時、九州・沖縄地方が抱える様々な高いハードルが心に浮かびました。そして世の中を取り巻く閉塞感も。しんどい暮らしの中でも温もる物語を書きたい――こうして『優しさめぐり』はできました。登場人物たちの行動は、良きも悪きも優しさから起こります。それがリンクし、やがてラストシーンへ繋がります。主人公・丈少年の想像に、私も寄り添わずにはいられません。この物語に触れた人たちの心に、小人のホットミルクくらいの温もりが届きますように。
最後になりましたが、お世話になった全ての皆さまへの山盛りの感謝をここに込め、受賞の言葉とさせていただきます。ありがとうございました。
「優しさめぐり」 あらすじ
江口(8)は、自動販売機の釣銭口をチェックするのが日課の小学3年生。
「世の中のお金には呪いがかかっている」と思っている。ある日、丈は、クラスメイトのゆみが学校に持ち込んだすっぽんドリンク剤を、愛理(8)が盗むのを目撃してしまう。
丈に近づく愛理。「俺、ゆみに言わねーし」と聞きホッとするも、盗んだ理由を丈に知ってもらおうとする。
丈が連れて行かれたのは病院。そこには植物状態の愛理の父が入院していた。必死にすっぽんドリンクを飲ませようとする愛理。
そこへ誰かがやって来た為、二人はカーテンの後ろに隠れる。こっそり覗き見ると、愛理の父にキスをする看護師がいた。驚く丈。しかしそれは愛理の母であった。病院のラウンジでケーキを食べる丈と愛理。愛理は、丈の言う「お金の呪い」をどうしたら解けるのかを考える。
果たして、その導き出した方法で呪いを解く事が出来るのだろうか。
総評
まずは、195編の応募、ありがとうございます。一次選考で43編に。二次選考で10編に絞られました。そして、大賞に『無心の水槽』。優秀賞に『たまてばこを探して』と『優しさめぐり』の2編が選出されました。
一次から最終選考までおよそ一ヶ月間。一つ一つの作品に審査委員は向かい合ってきました。そして、一つ一つの作品に込められた思いや熱などを感じてきました。やはり、原稿用紙15枚には、それなりの物語が作り上げられていたからです。
最終選考に残った10編に大きな差はありません。さらに言えば、大賞と優秀賞を決めるのに審査員それぞれの思いがあります。大賞はコレだろうと審査員で違うこともあります。そこは討議を重ねていきます。
大賞の『無心の水槽』は、近未来的な物語です。舞台は水族館。そこで起こる不思議な物語です。クラゲに心臓も脳もないというセリフが今でも残っています。
優秀賞の『たまてばこを探して』。15枚の短さで、よくここまでの物語を仕上げたことに感心しました。たまてばこにあったのは、夫から妻への手紙でした。
そして、もう一つの『優しさめぐり』。なんと言っても子供の存在感が際立っていました。子供から見た大人の世界が印象的でした。
いずれ、『無心の水槽』は、オーディオドラマとして製作されます。時間があれば、日本放送作家協会九州支部を検索して聞いてください。公開は来年の1月10日以降になります。
最後にもう一度、195編の応募、ありがとうございます。そして、来年の南のシナリオ大賞の応募をお待ちしています。
審査委員 盛多直隆
第11回 南のシナリオ大賞 表彰式
日時:11月25日(土)15:00~16:30
場所:アクロス福岡(福岡市中央区天神)
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